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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)10692号 判決 1998年4月17日

原告

岩崎喜一

被告

仲林良夫

ほか一名

主文

被告らは、原告に対し、連帯して金一一四四万四五三一円及び内金一〇四四万四五三一円に対する平成五年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金五八二〇万〇四〇〇円及び内金五五二〇万〇四〇〇円に対する平成五年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号待ちで停車中の普通乗用自動車に普通乗用自動車が追突した事故において、追突され負傷した運転手が、追突した自動車の保有者に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、追突した自動車の運転手に対し、民法七〇九条に基づき、それぞれ損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  交通事故の発生

(一) 発生日時 平成五年一〇月二一日午前七時一五分ごろ

(二) 発生場所 大阪府東大阪市松原南一丁目一番二六号先路上

(三) 加害車両 被告仲林祐治(以下「被告祐治」という。)が運転し、被告仲林良夫(以下「被告良夫」という。)が保有する普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

(三) 被害車両 原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

(四) 事故の態様 赤信号で停車中の原告車に被告車が追突した。

2  責任

(一) 被告良夫は、被告車の保有者であって、これを自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。

(二) 被告祐治は、前方不注視及び安全運転義務を怠り、本件事故を発生させた過失があるから民法七〇九条により、原告が被った損害を賠償する責任がある。

3  原告は、本件事故により、頭部外傷第Ⅱ型、頸椎挫傷、右肩挫傷、両上肢不全麻痺、腰椎挫傷等の傷害を負った。

4  治療経緯

(一) 石切生喜病院

入院 平成五年一〇月二一日から同年一一月二七日まで(三八日)

通院 平成五年一一月二八日から平成六年五月八日まで

平成六年七月一八日から平成七年二月二七日まで

(二) 大東中央病院

入院 平成六年五月九日から同年七月一七日まで(七〇日)

通院 平成六年四月一三日から平成七年二月二七日まで(一〇回)(乙第九)

(三) 以上、入院一〇八日、通院実日数二三四日

5  原告は、平成七年二月二七日に症状固定した。自動車保険料率算定会大阪第三調査事務所長は、同年七月二七日付けで、原告につき自賠法施行令二条別表等級の第一一級七号及び第一二級五号の併合一〇級(以下等級のみを示す。)との認定をした(甲第二、弁論の全趣旨)。

6  損害てん補

原告は、本件事故の損害てん補として一九五一万九七四一円を受領した。

二  争点(損害)

1  事故と後遺障害との因果関係及び素因の寄与の有無

(被告らの主張)

原告が、本件事故による後遺障害であるとする頸椎及び骨盤骨の変形は頸椎前方固定術によるものであるところ、原告には、加齢的変化である変形性頸椎症があり、これと本件事故前の平成四年一〇月一二日に遭った事故(以下「前回事故」と言う。)とが作用し、平成五年四月三日に、外傷性頸神経根損傷の症状が持続し、将来頸椎前方固定術が必要であるとされる状態で症状固定していたのであり、本件事故と頸椎前方固定術の実施及びこれによる、頸椎及び骨盤骨の変形との間に相当因果関係はない。

仮に本件事故と原告の後遺障害との間に相当因果関係があるとしても、本件事故は原告の症状の進行を早めたに過ぎないのであって、原告の損害の額を定めるに当たり、原告の右素因を斟酌すべきである。

(原告の反論)

原告は前回事故の前後を通じ、一貫して電気通信工事に従事し、その間、何らの不便もなく、通常の労働をしていたのであって、仮に原告に既往症があったとしても、本件事故後に生じた原告の減収は本件事故によって生じたものといわなければならない。

2  損害

(一) 治療費(当事者間に争いがない。) 五六六万四七四一円

(二) 入院雑費 一五万一二〇〇円

(算式)1,400×108

(三) 入院付添費 五九万四〇〇〇円

(被告らの反論)

付添の必要性はなかった。

(四) 交通費 八一〇〇円

原告は、大東中央病院に通院した九日間に、近鉄電車やバスを使用し、通院交通費八一〇〇円を要した。

(五) 休業損害 一四五一万三七四〇円

(1) 本件事故日から症状固定日までの分 八三五万五七四〇円

(2) 症状固定後平成八年二月末までの分 六一五万八〇〇〇円

(被告らの反論)

(1) 原告の症状固定日までの休業損害は八〇五万五七四〇円である。

(2) 症状固定後の分は休業損害としては認められるべきでない。

(六) 後遺障害逸失利益 四五九八万八〇〇〇円

原告は本件事故前には六一五万八〇〇〇円の年収を得ていたが、本件事故により、平成七年二月二七日、脊椎の奇形及び骨盤骨の著しい奇形を残して症状固定した後、一七四万円しか年収を得られなかったから、その差額四四一万八〇〇〇円を基礎にして、再就職した平成八年三月から就労可能上限年齢までの一四年間の逸失利益の現価を算出すると右のとおりである。

(被告らの反論)

原告の後遺障害の内、骨盤骨の変形は労働能力に影響しない。

(七) 慰謝料

入通院分 三一〇万〇〇〇〇円

後遺障害分 四七〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  事故と後遺障害との因果関係及び素因の寄与の有無

1  前記争いのない事実等及び証拠(甲第二、第一〇、第一一、乙第一から第一〇まで、原告)並びに弁論の全趣旨によれば、

(一) 原告は、電気通信工事に従事していた者であるが、平成四年一〇月一二日、自動車にひかれ、頭部外傷、頸椎捻挫、外傷性頸神経根損傷等の傷害を負い、同日から大阪市生野区所在の医療法人育和会記念病院(以下「育和会記念病院」という。)に入院し、同月一三日に実施されたMRI検査では、第五・第六頸椎、第六・第七頸椎に骨棘が見られるが、特に脊柱管の狭小化や脊髄に明らかな変化は見られず、軽度頸椎症と診断されたこと、同月二九日に実施されたCT検査では、第五・第六頸椎レベルで脳脊髄腔右側に圧排が見られ、変形性脊椎症と思われる旨、脊髄の圧排はなく、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニア等は見られない旨診断されたこと、

同年一一月一四日に同病院を退院し、入院時経過総括によれば、当初認められた右上肢の単マヒは消失し、第八頸髄領域の自発性異常感覚は入院時の半分以下に改善はしたが残存したこと、同月二四日まで通院(実日数四日)したこと、

同月二七日、大阪府東大阪市所在の上田整形外科に、頸部痛、両肩硬直感、頭痛、右前腕以下しびれ感などを訴えて受診し、頭部、頸部挫傷、外傷性頸部症候群、右上肢不全麻痺の診断を受け、平成五年五月二七日まで通院し、投薬、温熱療法、右前腕から右手にかけての低周波療法等を受けたこと、同病院の上田晏弘医師は、前回事故により、頑固な頭痛、頸部痛著明、右上肢脱力感著明、しびれ感頑固などのため、同年三月二五日まで、原告は就労不能である旨の就労不能証明書を作成したこと、

原告は、同年三月から職場に復帰し、電柱に昇ったり、ケーブルを運んだりする作業に従事したこと、

育和会記念病院の文正夫医師は、同年四月三日の診断に基づき、同年一二月八日付けで自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日「平成五年四月三日」、傷病名「頭部外傷、外傷性頸神経根損傷」、自覚症状につき、<1>右手のしびれ、<2>項部から肩にかけての痛みがひどい、特に臥位になると痛みが強くなる旨、精神神経の障害、他覚的症状および検査結果につき、<1>神経学的検査で、右第八頸神経領域の知覚鈍麻、腱反射、上肢、深部腱反射が低下、右握力低下、スパーリングテストで右肩から上肢へ放散痛があり、<2>頸椎X―Pで、第五・第六頸椎の椎間腔が狭く、第五・第六頸椎の右椎間孔、第六・第七頸椎の両椎間孔が狭い、<3>MRIで第五・第六頸椎、第六・第七頸椎に、骨肥厚(骨棘)による神経根圧迫像がある旨、脊柱の運動制限(前屈四〇度、後屈二五度、右屈・左屈共一〇度)、障害内容の増悪・緩解の見通しなどにつき、「症状は長期持続するものと考える(将来的には手術が必要である)」旨診断したこと、

(二) 原告は、平成五年一〇月二一日、本件事故後、大阪府東大阪市所在の医療法人藤井会石切生喜病院(以下「石切生喜病院」という。)に救急搬送され、意識は清明、嘔気、頭痛、両側上肢のしびれ等があり、頭部外傷Ⅱ型、頸椎挫傷、右肩挫傷、両上肢不全麻痺と診断され、同日から入院し、ジャクソンテストは陽性、右腕のしびれを訴えたこと、同月二九日のMRI検査で、第五・第六頸椎、第六・第七頸椎椎間板が軽度背側へ突出し、これらの椎間腔が狭小化、硬膜管圧排が認められ、変形性頸椎症との診断がされたこと、同年一一月五日から理学療法が開始され、同月二七日退院したが、以後も、頸部痛、右上肢のしびれなどを訴えて同病院にほぼ連日通院を続け、頸椎牽引を受けたこと、

同年一二月一日、原告は、育和会記念病院を受診し、右手のしびれ、横になると痛みが走り、我慢できなくなる旨訴え、第八神経根領域の知覚鈍麻、スパーリングテストで右肩に放散痛が認められ、同月三日の頸椎MRI検査により、第五・第六頸椎間、第六・第七頸椎間に椎間板突出が見られ、第五・第六頸椎左側、第六頸椎・第七頸椎両側の椎間孔が狭小化している旨の診断がされたこと、

平成六年四月一三日、原告は、石切生喜病院からの紹介で大阪府大東市所在の医療法人藤井会大東中央病院(以下「大東中央病院」という。)を受診し、同年五月九日に同病院に入院し、頸椎エックス線検査によれば、第四・第五頸椎間、第五・第六頸椎間、第六・第七頸椎間の椎間腔狭小、第五・第六、第六・第七椎間孔の右側が狭小であったこと、同病院の任清医師(以下「任医師」という。)は、神経学的レベルと画像上の病変部位とに不一致があると思われたので、原告に対し、積極的に手術が必要であると勧めることはできなかったが、原告がそれまでの約六か月の保存的治療で症状の改善がなく、痛みを訴え、治療を求め、手術後に生じ得る可能性について原告の納得を得たので、原告の右上肢疼痛、しびれ感の改善を目的とし、同月一八日、第五・第六、第六・第七頸椎前方固定術を実施し、その際、右腸骨から二個の骨片を採取し、これを移植したこと、頸椎前方固定術により頸椎部の運動機能低下が発生したこと、

原告は、同年七月一七日に退院し、同年九月七日、上肢痛はない旨、同年一〇月一日、時々頸椎後方に突っ張り感がある旨、平成七年一月七日、寒い時に肩の突っ張り感がある旨、同年二月八日、寒い時に肩の痛みがある旨訴え、同年三月一日、任医師は、同年二月二七日の診断に基づき、同年三月一日付けで自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書を作成し、症状固定日を平成七年二月二七日、傷病名「頸椎症脊髄症」、自覚症状につき、両上肢痛、しびれ感、頸部硬直」、精神神経の障害、他覚的症状および検査結果につき、両上肢筋力低下、右下肢筋力低下、第五・第六頸椎、第六・第七頸椎椎間腔狭小化、MRIで第五・第六頸椎、第六・第七頸椎に脊髄圧排像、脊柱の運動制限(前屈・後屈・右屈・左屈共一〇度)旨診断したこと、

同年七月二七日、自動車保険料率算定会大阪第三調査事務所長は、同日付けで、原告につき、第一一級七号及び第一二級五号の併合一〇級との認定をしたこと、

任医師は、原告の本件事故後の症状増悪が、原告の加齢変性の進行によるものと考えるには時間的経過が短く、本件事故による外傷の影響を無視することはできないのではないかと考えていること、

原告の頸や手の痛みやしびれは、前方固定術後、徐々になくなり、首を回すことに不便が残った以外は回復したこと、

等の事実を認めることができる。

2  右の事実によれば、

(一) 原告は、前回事故の後、平成五年四月三日、右手のしびれ、項部から肩にかけての痛み等を残して症状固定した旨診断され、同年三月から、職場に復帰し、電柱に昇ったり、ケーブルを運ぶ作業に従事することができたにもかかわらず、本件事故後は、頸部痛や右上肢に横になると我慢できなくなるほどの痛みが走るようになったこと、任医師が、原告の右のような症状増悪が、加齢変性の進行によるものと考えるには時間的経過が短く、本件事故による外傷の影響を無視することはできないのではないかと考えていること等の事実を勘案すると、本件交通事故と原告に本件事故後生じた症状との間には相当因果関係を認めることができるというべきである。また、右を前提にすれば、本件事故後約六か月、保存的治療が実施されたにもかかわらず、原告の訴える症状には改善が見られなかったのみならず、痛みが我慢できなくなる旨訴えたり、治療を求めたことや、頸椎前方固定術を実施後、原告の頸や手の痛みやしびれが徐々になくなり、回復するに至ったこと等に鑑みると、任医師が、原告の右上肢の疼痛やしびれ感の改善を目的にして実施した頸椎前方固定術はその必要性があったものというべきであり、そうとすると、右手術により原告に残存した頸椎及び骨盤骨の変形と本件事故との間には相当因果関係を認めることができる。

(二) 原告には、前回事故前から、第五・第六頸椎、第六・第七頸椎に骨棘による神経根圧迫があり、右素因は本件事故と共に原因となって原告の症状の発生及び持続に影響を与えていることを認めることができ、また、医師が、前回事故後本件事故前の平成五年四月三日の時点で、症状は長期持続し、将来的には手術が必要である旨診断していたことに鑑みると、右は疾患に当たるものであったというべきであって、その態様、程度などに照らし、被告に損害のすべてを賠償させるのが公平を失すると解されるから、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、原告の損害の一割を減額するのが相当である。

二  損害

1  治療費 五六六万四七四一円

当事者間に争いがない。

2  入院雑費 一四万〇四〇〇円

原告が、本件事故により負傷し、合計一〇八日入院したことは当事者間に争いがなく、右入院期間中一日当たり一三〇〇円の雑費を必要としたものと解するのが相当であるから、原告の主張は右の限度で理由がある。

(算式)1,300×108=140,400

3  入院付添費 〇円

原告は、その入院期間中、妻の付添介護を要した旨主張し、証拠(原告)によれば、原告の入院中、原告の妻が付き添ったことを認めることができるけれども、他方、原告の妻が付き添うようになったのはギプスの使い方を看護婦よりもよく知っていたからであるというに止まり、医師が付添を必要とする旨指示したことを認めるに足りる証拠もなく、本件事故と入院付添費との間に相当因果関係を認めることはできず、原告の主張は理由がないといわざるを得ない。

4  交通費 八一〇〇円

原告は、大東中央病院に通院した九日間に近鉄電車やバスを使用し、通院交通費八一〇〇円を要した旨主張し、前記争いのない事実等及び証拠(乙第九、原告)並びに弁論の全趣旨によれば、原告は大東中央病院に平成六年四月一三日から平成七年二月一七日までの間に一〇回通院し、右病院の所在地と原告の住所地との距離に鑑みれば、原告は通院するために交通機関を利用する必要性があり、交通費として一回当たり九〇〇円を要したことを認めることができるから、原告の主張は理由がある。

5  休業損害 八〇五万五七四〇円

原告の休業損害が、症状固定日である平成七年二月二七日までの分については、少なくとも八〇五万五七四〇円であることは当事者間に争いがなく、原告は、右期間中の休業損害が八三五万五七四〇円である旨主張し、前記一の事実及び証拠(甲第三の一から八まで、第一一、原告)によれば、原告は、本件事故当時、有限会社西田電建に、電気通信工事の作業主任として勤務し、NTTの下請けで、マンホール内での通信ケーブルの交換、電柱の設置、既設電柱の端子箱の設置、端子箱から各家庭への配線、家庭内配線、電話機の設置など電話に関する工事のすべてに関わっていたこと、原告は、西田電建から本件事故前の三か月間に合計一二六万四六九二円の給与を得ていたこと、本件事故による負傷のため平成五年一〇月二一日から平成七年二月末日まで休業を余儀なくされたこと、賞与につき平成五年に三〇万円、平成六年に八〇万円の合計一一〇万円を減額されたこと等の事実を認めることができ、右の事実によれば、原告は、本件事故当日から症状固定日である平成七年二月二七日までに休業損害八〇五万五七四〇円を被ったことを認めることができ、原告の主張は右の限度で理由がある。

なお、原告は、症状固定後の休業損害を主張するが、次項の後遺障害による逸失利益として考慮すれば足りるものと解する。

6  後遺障害逸失利益 一三五二万四六五四円

(一) 前記争いのない事実等、前記一の事実及び証拠(甲第一一、原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば、

原告(昭和一七年一一月一八日生まれ、男性)は、昭和五五年ないし昭和五六年ごろから、有限会社西田電建に勤務し、それ以前の期間も含めると三〇年近くの間、電気通信工事に従事し、電柱に昇ったり、ケーブルを運んだりする作業に従事し、平成四年には給与及び賞与合計四八〇万〇八〇四円の年収を得ていたこと、本件事故により、頸椎前方固定術を受けた際、腸骨から二個の骨片を採取し、これを頸椎に移植したこと、頸椎前方固定術により頸椎の運動制限(前屈・後屈・右屈・左屈共一〇度)が残存し、原告は、平成七年二月二七日、頸椎に奇形及び骨盤骨に著しい奇形等の障害を残して症状固定し、症状固定時に満五二歳であったこと、自動車保険料率算定会大阪第三調査事務所長は、原告の後遺障害につき第一一級七号及び第一二級五号の併合第一〇級であるとの認定をしたこと、原告は、任医師から、前方固定術実施後、体の姿勢の不安定な仕事、重量物を持ち上げたり、運搬したりする仕事、何時間もうつむいて作業する仕事は無理である旨告げられたこと、平成七年二月に西田電建を退職し、軽トラックを運転して宅配の仕事に従事していること等の事実を認めることができる。

(二) 右の事実によれば、骨盤骨の変形障害は頸椎前方固定術の際の骨移植の結果であって、原告の労働能力に影響を与えないと解されるが、頸椎の変形障害は第一一級七号に該当し、原告は、労働可能上限年齢である六七歳までの一五年間、その労働能力を概ね二〇パーセント喪失したものと解するのが相当であり、本件事故前の三か月間に得ていた収入額合計一二六万四六九二円並びに平成五年一二月の賞与七〇万円及び平成六年八月の賞与四〇万円を基礎にして、右後遺障害による原告の労働能力喪失に係る逸失利益の現価を、新ホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると右のとおりとなる(円未満切り捨て。以下同じ)。

(算式)(1,264,692÷3×12+700,000+400,000)×0.2×10.980

なお、原告は本件事故前の年収六一五万八〇〇〇円と事故後の年収一七四万円との差額四四一万八〇〇〇円を基礎にして逸失利益を算出すべき旨主張し、事故後の収入についてはその主張に沿う証拠があるけれども、事故後の収入が前記の労働能力喪失率を超えて減少していることと本件事故との間に相当因果関係を認めるに足りる証拠はなく、原告の主張に首肯することはできない。

7  慰謝料 五九〇万〇〇〇〇円

原告の受傷部位及び程度、入通院の経過、後遺障害の部位及び程度、その他の諸事情を考慮すれば、原告の慰謝料は、入通院分一五〇万円、後遺障害分四四〇万円が相当である。

三  民法七二二条二項の類推適用による減額

前記一2(二)に判示したとおり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、前記二の原告の損害合計額三三二九万三六三五円からその一割である三三二万九三六三円を減額すると残額は二九九六万四二七二円となる。

四  損害てん補

原告が、本件事故につき一九五一万九七四一円の損害てん補を受けたことは当事者間に争いがないから、前記三の残額から右損害てん補額を控除すると残額は一〇四四万四五三一円となる。

五  弁護士費用

本件事案の性質、認容額その他の事情を考慮すると、弁護士費用は一〇〇万円が相当である。

六  以上のとおりであって、原告の請求は、被告らに対し、金一一四四万四五三一円及び内金一〇四四万四五三一円に対する本件不法行為の日の翌日である平成五年一〇月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条、六五条、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石原寿記)

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